音声広告で月数十億円を稼ぐ海外メディア――日本が参入すべき3ステップ
米国のポッドキャスト広告収益は2024年に24億ドルへ達した。主要企業の公開数字と広告実務の経験から、日本のメディアが小さく試せる3段階を考える。

執筆:笹尾祐太朗(株式会社メディアリープ代表/Web広告・メディア収益化実務)
「音声広告って、実際にいくら稼げますか」。
メディアの事業担当者から、この質問を何度か受けました。質問の背景には、テキスト広告の単価が下がり続けている焦りがあります。私が媒体の収益画面を見ていた時期にも、テキスト面の単価低下は繰り返し起きていました。媒体や季節で差が大きいため、ここでは一つの下落率に一般化しません。
IABとPwCが公表したデータでは、2024年の米国ポッドキャスト広告収益は24億ドル、前年比26.4%の成長でした。デジタル音声広告市場全体では76億ドルです。円換算額は1ドル150円で置いた概算です(IAB/PwC Internet Advertising Revenue Report 2024)。
eMarketerの予測では、米国のポッドキャスト広告費は2025年に25.1億ドル、2028年には30億ドルを超える見込みです(eMarketer 2025年4月レポート)。
日本のメディアの多くは、まだこの市場に手をつけていません。一方で、海外ではすでにプラットフォームが固まり、収益柱として機能しています。
私はWeb広告を配信する会社でSSP事業に携わっていた時期があります。プログラマティック広告の黎明期から、メディアの広告収益化を現場で支援してきました。Googleが市場を握るなか、後発の日本企業が機能で勝負しても構造はびくともしないという感覚を、この時期に体得しました。
海外の音声広告市場で起きていることを公開数字で追い、日本のメディアが試せる順序まで考えます。実装の全体像はWebメディアの音声化を始める5ステップにも詳しく書きました。
なぜ音声広告は「稼げる」のか
音声広告が海外で成長している理由は、構造にあります。
Web広告に関わっていた頃、広告主から一番よく聞かれたのは「どうすればユーザーに見てもらえるか」でした。リッチ広告、インタースティシャル、ネイティブ広告。表示方法を変えても、広告を避ける行動そのものは消えませんでした。
バナー広告のクリック率は媒体、広告位置、端末で大きく変わります。ただ、運用画面を日々見ていた頃から、読者が広告を無意識に避ける「バナーブラインドネス」は明確に感じていました。音声は別の接点を作れますが、再生前広告が長ければ離脱を招きます。
音声広告の構造的優位はここにあります。音声広告はコンテンツの合間に流れるため、意識的に避けるのが難しいです。テレビCMと同じ性質で、放送されたら聴くしかありません。視覚の端に追いやられるのではなく、聴覚の中心に入ってきます。
<figure> <img src="https://images.media-leap.com/blog/2026/07/1784683073640-wtfsdgfb.png" alt="音声広告とディスプレイ広告の接点の違いを示す図" /> <figcaption>図: ディスプレイ広告は視線の外に置かれやすく、音声広告は聴取の流れに入ります。ただし、強制再生は離脱要因にもなります。</figcaption> </figure>実際の数字を見てみましょう。業界データでは、音声広告のリスン完了率は90%を超えます(Lessing-Flynn Benchmark 2025-2026)。ディスプレイ広告のビューアビリティが平均50%前後であることを考えれば、音声広告が広告主にとってどれだけ効率的かが分かると思います。
さらに、ポッドキャスト広告はブランドリコール(想起率)が高いです。ScrippsとNielsenの共同研究では、ポッドキャスト広告は他のデジタル広告より最大4.4倍高いブランドリコールを記録しています(Scripps 2023)。ホスト自身が語る「ホストリード広告」は、事前録音の広告に比べてリコールが68%も高いそうです(Nielsen Podcast Ad Effectiveness Report)。
これが、音声広告が高単価で取引される根拠です。
海外の収益事例――数字で見る
公開されている企業事例を見ると、市場の規模感が分かります。
iHeartMediaは米国最大のラジオ系メディアで、ポッドキャスト事業で際立った成績を残しています。2025年第4四半期のポッドキャスト収益は1億7,400万ドル(約260億円)、前年比プラス24%でした。通期でもポッドキャスト収益は2桁成長を続けています(iHeartMedia 2025 Q4決算)。
SiriusXMは、2025年のポッドキャスト広告収益が前年比41%の急成長を記録しました(PPC.land 2026)。月間7,000万人のポッドキャストリスナーを抱え、1,800以上の番組を配信しています(SXM Media)。
Acast(独立系最大手)は、2025年第4四半期の売上前年比27%増、有機成長率31%で、2025年に初めて通期黒字を達成しました(Acast Q4 2025 Report)。
Spotifyは2026年4月に公開した第1四半期決算で、月間アクティブユーザー7億6,100万人、プレミアム加入者2億9,300万人を公表しました。広告収益は為替影響で一時的に減少したものの、ポッドキャストはスポンサーシップ収入で好調を維持しています(Variety 2026年4月)。
CPM(1,000回再生あたりの広告単価)は、ポッドキャスト業界で15〜50ドルの幅で取引されています。ホストリード広告のミッドロールであれば標準的に15〜30ドル、ビジネス系のニッチな番組で30ドル前後。トップ100に入るような大番組になると、60〜120ドルを超えます(Adopter.media 2026)。
日本のテキスト記事のディスプレイ広告CPMが、いまや数百円単位で推移していることを考えれば、数字の桁が違います。
音声広告市場を変えた2つの技術
ここで、技術の話を少しだけ補足します。
音声広告の市場が2024年から急加速した背景には、2つの技術的なブレイクスルーがあります。
一つはプログラマティック音声広告の成熟です。 これまでは、ポッドキャストの広告枠は営業が一件ずつ売る「ダイレクトセールス」が主流でした。しかし、Spotifyが2025年4月に「Spotify Ad Exchange(SAX)」を始め、The Trade Desk、Google DV360、Amazon DSPなどの主要DSPと連携しました(Spotify Newsroom 2025年4月)。
これにより、音声広告枠もディスプレイや動画と同じようにリアルタイムオークションで買えるようになりました。eMarketerの予測では、2025年にプログラマティック経由の購入はデジタル音声広告費全体の約30%、ポッドキャストに限れば約35%を占めるそうです(eMarketer 2025)。
もう一つは、生成AIによる広告制作コストの低下です。 Spotifyは同時に「Gen AI Ads」を発表し、米国とカナダの広告主向けにスクリプト、ナレーション、BGMを無料生成するツールを出しました。このツールを使ったSHI Internationalの事例では、従来のプロナレーターを使った広告と比べ、サイト流入が3倍になったと報告されています(Spotify SHI International Case Study)。
少し、現場の感覚を書かせてください。制作コストが下がるということは、小さな広告主でも音声広告に出せるようになる、ということです。これまで音声広告は大企業のブランディング用途が中心で、最小ロットが数百万円単位になることが多かったです。生成AIがその壁を壊しました。
広告主の裾野が広がれば、プラットフォーム側の収益も伸びます。これが、2024年以降にポッドキャスト広告費が急加速した構造的な理由だと思います。
日本のメディアが参入する道筋
現場での実感を、もう少し解像度を上げて書きますね。
日本のメディアが音声広告に参入するなら、段階的に進めるのが現実的です。順番を飛ばすと、どこかで必ず詰まります。
既存記事の音声化で「聴ける」環境を作る
TTS(テキストを音声に変える技術)で既存記事を音声化し、プレイヤーを記事に埋め込みます。この段階では広告は載せません。ユーザーが「音声で記事を聴く」体験に慣れるのを待ちます。
私自身、自社で音声SaaSを開発していますが、一番時間がかかるのはエンジン選定ではなく、読み手に自然に響くテキスト設計です。固有名詞の読み、長い文の分割、見出しの扱い。記事を「耳向け」に組み直す前処理に丁寧に取り組むほど、最終的な滞在時間が変わります。
音声広告枠をテスト導入する
音声再生数が安定してきたら、記事の音声の前後に短い広告(5〜10秒)を入れます。最初は自社プロモーションで効果を測定し、その後、外部の広告主に枠を提供します。
ここで選択制にするのが大事です。音声広告を強制的に流すのではなく、「広告付きで無料」「広告なしで有料」の二つのルートを用意します。日本では音声広告に対する受容度がまだ低く、「読みたいのに広告が邪魔」と感じる層が少なくありません。ユーザーが選べる仕組みにすれば、不満を抑えながら収益を確保できます。
自動取引へ進む
データが蓄積したら、プログラマティック配信に移行します。海外ではSpotify SAXやAmazon DSPとの連携で、リアルタイムオークションによる自動配信が主流になりつつあります。日本でも、音声広告ネットワークが整備されれば同じ経路をたどるだろうと思っています。
導入メディアでは、音声再生セッションの滞在時間が非再生セッション比で平均1.5〜2.5倍になりました。対象は30社以上、GA4による2024〜2026年の観測で、再生した利用者に限る比較です。因果を保証する数字ではありません。測定条件と解釈は音声化と滞在時間の検証記事に記載しています。半年から1年という導入期間も、営業体制や再生率で変わる私の目安です。
海外の事例は「手本」であって「答え」ではない
補足しておくと、海外の成功モデルをそのまま日本に持ち込めるわけではありません。
日本の広告市場は、欧米と比べてブランド広告の比率が低く、パフォーマンス重視の傾向が強いです。直帰率やCPAで即断されるため、ブランドリコールの効果が出にくい音声広告は、当初は売りにくいです。iHeartMediaのポッドキャスト収益が四半期で約260億円(1億7,400万ドル)に達しているのを見ると落差を感じますが、これは米国特有のブランド広告文化とリスナー規模があっての数字です。
テキスト広告だけに依存するリスクは高まっています。ただし、再生母数が小さい媒体や、短い速報が中心の媒体では、音声広告の営業・審査コストが収益を上回ります。ChatGPT広告がメディア収益へ与える影響も含め、複数の届け方を比べる必要があります。PUBVOICEは、小さなメディアでも「聴く導線」を試せる状態を目指して作っています。残る仕事は、技術よりも読者体験の設計です。
記事を「音」で届けるサービス、PUBVOICE
私たちが開発したPUBVOICEは、メディア運営者の作業負担を増やさずに音声体験を追加できるサービスです。RSSを登録するだけで、新しい記事が公開されるたびに自動で音声が生成されます。
「読者が記事を最後まで読んでくれない」——その悩みを聞くたびに、音声なら解決できると感じていました。通勤中、家事の合間、運動中。テキストが届かない時間に、音声は届きます。PUBVOICEは、その想いから生まれたサービスです。

笹尾 祐太朗
デジタル技術の力を借りて、一人ひとりの「やりたい」「できるようになりたい」に真摰に向き合い、技術の力で実現していく。それが私たちの使命です。
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