YouTubeやSpotifyが「音声」に注力する理由——動画プラットフォームの次の一手

YouTubeは2025年2月に月間ポッドキャスト視聴者10億人に到達し「米国で最もよく使われるポッドキャストサービス」となりました。SpotifyはMAU7.51億、プレミアム2.90億人。Edison Researchのシェア調査ではYouTube 32% / Spotify 25% / Apple 15%。動画プラットフォームが音声に注力する戦略的背景を現場の視点から整理します。

YouTubeやSpotifyが「音声」に注力する理由——動画プラットフォームの次の一手

2025年2月26日、YouTubeは「月間アクティブなポッドキャスト視聴者が10億人を超えた」と公式発表しました(YouTube公式ブログ 2025年2月26日)。2024年のポッドキャスト月間視聴時間は4億時間超。Neal Mohan CEOは2025年2月11日の年次レターで「YouTube is now the most frequently used service for listening to podcasts in the U.S.」と書いています(Our big bets for 2025)。

動画プラットフォームの王者が、あえて「見ない」体験に投資している。

一方のSpotifyは、2025年4月に「Spotify Ad Exchange(SAX)」をローンチし、音楽アプリから「オーディオファーストプラットフォーム」への転換を加速しています。2025年Q4決算では月間アクティブユーザー7.51億人、プレミアム加入者2.90億人に到達しました(Spotify Q4 2025決算 2026年2月10日)。

私は出版社系メディアで広告収益化とデータ分析を担当していた時期があります。その経験から言うと、プラットフォームが「セッション時間」を最も重視するのは、現場でデータを見ている人間なら当たり前のことでした。広告を表示する機会が増え、収益が上がる。シンプルな因果関係です。

この一見矛盾する動き——動画の王が音声に注目する——には、明確な戦略があります。この記事では、その理由と、メディア運営者がそこから何を学べるかを整理します。

なぜ動画プラットフォームが音声に投資するのか

答えはシンプルです。「消費が止まる時間」を取り込むためです。

動画は最もエンゲージメントの高いコンテンツ形式のひとつですが、「画面を見続けなければならない」という制約があります。通勤中、家事中、運動中——画面に集中できない場面では、動画の消費が止まってしまう。

プラットフォームはこの「消費が止まる時間」に気づきました。ユーザーがアプリを閉じるのは、コンテンツに飽きたからではなく「画面を見られない状況」になったから。ならば、画面を見なくても消費できる形式を提供すれば、アプリ内の滞在時間を延ばせる。

この発想の転換が、YouTube Musicの「音声のみモード」やSpotifyのポッドキャスト強化に繋がっています。YouTube Musicの音声のみモードは、ポッドキャストリスナー全員(会員・非会員問わず)に利用可能で、Premium会員はバックグラウンド再生もできます(Google Support)。Googleは現在、無料版YouTube Musicを「音声のみ体験」に移行させ、未課金ユーザーにもバックグラウンド聴取を許可する方針を準備中と報道されています(Mashable)。

プラットフォーム戦略の裏にある数字

数字を見ると、両社の音声へのコミットメントがどれだけ本気か分かります。

YouTube:10億人のポッドキャスト視聴者

YouTubeの2025年通期の広告+サブスク収益は合计600億ドル超(Sundar Pichai CEO発表、Alphabet Q4 2025決算)。その中でポッドキャストは「文化の中心を動かす最重要フォーマット」と位置づけられています。

自動ダビング(多言語音声トラック生成)も重要な投資です。Google DeepMindの技術でポッドキャストやライブ配信にも拡張適用されていて、吹き替え音声付き動画では視聴時間の40%超がダビング言語で聴かれています。多言語化によるリーチ最大化が、音声投資の柱になっています。

有料加入者数(Music & Premium合計)は2025年3月時点で約1億2,500万人(Variety 2025年3月)。さらにPremium Lite(7.99ドル/月)が2025年後半にバックグラウンド再生・オフラインダウンロードを新たに提供開始し、音声利用の裾野を広げています(The Verge)。

Spotify:SAXでプログラマティック本格化

Spotifyの2025年Q4決算は、総収益€4.53B(+13%、定量通貨ベース)、営業利益は過去最高の水準に達しました。注目は広告支援セグメントの粗利率が19.5%(前年比+441bps改善)という点。広告支援事業の収益性が急速に改善しています(Spotify Q4 2025 Shareholder Deck PDF)。

その牽引役のひとつが、2025年4月2日にローンチした「Spotify Ad Exchange(SAX)」です(Spotify Newsroom 2025年4月2日)。The Trade Desk、Google DV360、Amazon DSPなどの主要DSPと連携し、ログインユーザーインベントリへのリアルタイムオークション(RTB)アクセスを可能にしました。さらに2025年10月1日にはAmazon DSPとの公式提携を発表、Spotifyの音楽・動画・ポッドキャスト在庫がAmazonのファーストパーティショッパーデータと組み合わせて配信可能になりました(Amazon Ads公式 2025年10月1日Variety)。

結果として、SAX経由の月間アクティブ広告主数は+222%に達したと報告されています(Digiday)。プログラマティック経由の月間アクティブ広告主が3倍以上に増えた計算です。

同時に、Spotifyは「Gen AI Ads」もローンチ。米国・カナダ・英国の広告主がスクリプト・ナレーション・BGMを無料で自動生成できるようになりました。SHI Internationalの事例では、プロのナレーターを使った広告と比較してサイト流入トラフィックが3倍になったと報告されています(Spotify SHI International Case Study)。

オーディオブックという第3の柱

Spotifyのもうひとつの成長柱がオーディオブックです。2023年10月にPremium会員向けに提供開始して以降、カタログは15万タイトルから70万タイトル超へほぼ5倍に拡大。リスナー数は前年比+36%、視聴時間は前年比+37%に達しました(Spotify Newsroom 2025年10月15日)。2026年5月のInvestor Dayでは、視聴時間は前年比+60%に加速し、オーディオブックリスナーの半数が「新規オーディオユーザー」だと発表されています(Spotify Investor Day 2026年5月21日)。

Daniel Ek CEOはSpotifyを「世界No.1オーディオプラットフォーム」と位置づけ、音楽+ポッドキャスト+オーディオブックの3本柱で「creator platform」を構想しています。

滞在時間の圧倒的な差——音声が動画より長い理由

大規模メディアのグロースハックと運用改善を主導していた頃、広告主が最も重視する指標は「セッション時間」でした。1回のセッションでユーザーが長く滞在するほど、広告を表示する機会が増え、収益が上がる。

この指標で言うと、音声は動画よりも有利な場合があります。動画は1本10〜20分で視聴が終わることが多いですが、ポッドキャストは1時間以上聴き続けるリスナーが少なくありません。1回のセッションで消化するコンテンツ量が、動画よりも音声の方が大きいです。

BeyondWordsのAudio Engagement Report 2023(1,700万再生分析)では、音声記事の平均視聴時間は3分45秒(完了率59%)で、平均time-on-pageの55秒と比較して音声は4倍の滞在を生んでいます(BeyondWords Audio Engagement Report 2023)。BotTalkネットワークの平均完了率は75%、音声リスナーはテキスト読者の3.2倍のコンテンツを完読するというデータもあります(BotTalk Blog 2026年4月20日)。

FT(Financial Times)とNoaの事例では、Noa経由のFTコンテンツは平均完了率86%に達しています(FT Professional / Noa事例)。Pugpig Media App Report 2025(140パブリッシャー、400以上のアプリ分析)でも、「音声エンゲージユーザーは約2倍滞在する」という結果が出ています(Pugpig 2025年7月31日)。

長い滞在時間は、広告枠の増加に直結します。Spotifyはポッドキャストの途中に自動的に広告を挿入する仕組みを持っていて、セッションが長ければ挿入できる広告の本数も増える。つまり、音声への投資は直接的に収益増につながります。

市場シェアで見る二強構造

Edison Researchの調査で、米国の週次ポッドキャストリスナーのプラットフォームシェアを見ると、YouTube 32% / Spotify 25% / Apple Podcasts 15%という二強構造が浮かび上がります(Edison Research 2025)。英国でもYouTubeがSpotifyを逆転しました。

日本でも構造は同じです。オトナル × 朝日新聞社の「第6回ポッドキャスト国内利用実態調査」(2026年2月24日公開、15-69歳1万人)では、聴取プラットフォームの1位がYouTube 39.2%、2位がSpotify 33.0%、3位がradiko 20.5%でした(調査報告書PDF)。

両国とも、YouTubeが首位でSpotifyが追う構造。ビデオポッドキャスト(vodcast)の台頭が共通の牽引要因になっています。

Webメディアが音声戦略から学べること

動画プラットフォームの音声戦略から、Webメディアも学べることは多いです。

ひとつは「消費の場を広げる」という発想です。テキスト記事は「画面を見ている時間」にしか消費されません。音声版を追加すれば、「目がふさがっている時間」にも届く。リーチできる時間帯が単純に増えます。

もうひとつは「セッション時間を延ばす」という発想です。音声はテキストよりも長く消費されやすい。1記事3,000字の解説記事をテキストで読むのにかかる時間は約5分。同じ記事を音声で聴くと、約8〜10分かかります。話速の設定によりますが、テキストよりもゆっくり進む分、滞在時間が延びます。

そして「新しい収益フォーマット」の導入です。動画プラットフォームが音声広告という新しいフォーマットを開拓したように、Webメディアもテキスト広告以外の収益手段を検討する必要がある。アドブロックの世界普及率が29.5%(GWI Q2 2025)に達する現状では、音声広告への移行は有力な選択肢になります。

正直に言うと、これらは「知っていれば当たり前」に聞こえるかもしれません。でも、30社以上のメディア現場を見てきて感じるのは、知っていることとやることの間に、意外と距離があるということです。

メディア運営者が次に取るべきアクション

具体的なステップを整理します。

既存のテキスト記事にTTSで音声版を生成します。その音声版をポッドキャストとして配信します。Spotify、Apple Podcasts、YouTube Musicの3プラットフォームに配信できれば、初期のリーチは十分です。

配信を始めたら、再生データを計測します。どの記事がよく聴かれているか、どこで離脱しているか。このデータは、テキスト記事の改善にも活用できます。

PUBVOICEを導入したメディアでは、滞在時間が平均11倍に延び、リピート率+32%、PV+19%に達しています(PUBVOICE公式ブログ 2026年6月)。これは一部の突出した事例ではなく、30社以上のメディアで再現された数字です。


動画プラットフォームが音声に注目する理由は、「消費が止まる時間を取り込む」ことにあります。画面を見られない状況でもユーザーを引き留め、セッション時間を延ばし、広告収益を増やす——この戦略はWebメディアにも応用できます。

情報は、届け方次第で人の行動を変えられます。テキストに届かない時間に、音声が届く。その事実をどう自分たちのメディアに組み込むか——それが、いま問われていると思います。

自社開発サービス

記事を「音」で届けるサービス、PUBVOICE

私たちが開発したPUBVOICEは、メディア運営者の作業負担を増やさずに音声体験を追加できるサービスです。 RSSを登録するだけで、新しい記事が公開されるたびに自動で音声が生成されます。

RSS連携で記事公開と同時に音声生成
30種類以上の音声パターン
滞在時間が平均11倍に

「読者が記事を最後まで読んでくれない」——その悩みを聞くたびに、音声なら解決できると感じていました。 通勤中、家事の合間、運動中。テキストが届かない時間に、音声は届きます。 PUBVOICEは、その想いから生まれたサービスです。

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笹尾 祐太朗

笹尾 祐太朗

代表取締役 / MediaLeap Inc.

デジタル技術の力を借りて、一人ひとりの「やりたい」「できるようになりたい」に真摯に向き合い、技術の力で実現していく。それが私たちの使命です。

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