動画プラットフォームの変革期をどう捉えるか
近年、動画プラットフォームを取り巻く環境には、見過ごせない大きな変化が起きています。Google傘下のYouTubeは、低品質なAI生成コンテンツの乱立を防ぐため、収益化ポリシーを一層厳格化しました。具体的には、「クリックベイト(釣り)」や「スクレイピング(無断転載)」に該当するAIコンテンツへの規制を強め、作り手の付加価値が感じられないコンテンツを整理する方向に舵を切っています。
対照的に、TikTokは「TikTok Shop」を通じたEC(電子商取引)事業に注力しています。2023年に米国市場へ本格参入して以来、その成長は目覚ましいものがあります。シンガポールのメディア「Tech in Asia」によると、親会社ByteDanceのEC事業における総取引額(GMV)は前年比で大幅に増加しており、動画視聴から購買までの摩擦を極限まで減らす戦略が着実に実を結んでいるようです。
これら二つの動きを併せて考えると、動画プラットフォームは今、単なる「コンテンツ消費の場」から、よりダイレクトな「商取引の場」へと進化していると言えるのではないでしょうか。
YouTubeとTikTokが重視する「収益の質」
YouTubeがAIコンテンツの適正化を急ぐ背景には、広告主からの信頼を維持したいという意図が伺えます。私がアドテク業界に携わっていた2015年頃から、ブランドセーフティ(広告が不適切なコンテンツの隣に表示されないこと)は常に重要な課題でした。低品質なコンテンツが増えれば、視聴者だけでなく広告主の離脱を招く懸念があります。YouTubeは品質の担保を通じて、長期的な広告エコシステムを守ろうとしていると考えられます。
一方のTikTokは、広告収益と販売手数料を組み合わせたハイブリッドなモデルで収益の最大化を目指しています。ブルームバーグなどの報道によれば、2024年のGMV目標は前年を大きく上回る規模を掲げており、アルゴリズムもEC関連の動画を後押しする傾向にあるようです。
YouTubeは「広告価値を守るための環境整備」を、TikTokは「購買を促すためのエコシステム活性化」を、それぞれ優先しているように見えます。両者に共通しているのは、単なる「再生回数」や「滞在時間」以上に、「収益に直結するアクション」を重視し始めているという点です。

変化する「選ばれる動画」の条件
こうした状況から推察されるのは、今後は「購買やアクションに結びつきにくい動画」が、プラットフォーム上でこれまで通りの広がりを見せることが難しくなるかもしれない、という点です。
例えばTikTokでは、商品紹介や販売リンクを含む動画が、アルゴリズムから好意的に扱われる可能性が高まっています。クリエイターにとっては、純粋なエンターテインメントに加え、「いかに購買へ繋げるか」という視点を持つことが、プラットフォームからの評価を得る一つの鍵になりつつあります。
YouTubeにおいても、ショート動画を活用した商品紹介や、メンバーシップ機能によるファンコミュニティの形成が収益化の重要項目となっています。私が経験した2015年代のSSP(サプライサイド・プラットフォーム)業界では、インプレッションの最大化が焦点でしたが、現在は「視聴者をいかに顧客やファンへと転換するか」という、より深い関係性が求められる時代へシフトしていると感じます。
これからのメディア運営に求められる「自律的な基盤作り」
加速するEC化の流れの中で、Webメディア運営者はどのような戦略を描くべきでしょうか。一つの考え方として、プラットフォームの動向を注視しつつも、それに翻弄されない「独自の収益基盤」を並行して築くことが重要だと考えます。
プラットフォームによる集客力を活かしながらも、最終的な接点は自社のアプリ、Webサイト、メールマガジンといった「オウンドメディア」へ誘導し、直接的な関係を構築する戦略です。特にアプリは、プッシュ通知などを通じてアルゴリズムの影響を受けずに読者へ情報を届けられるため、非常に強力なツールとなります。
2013年からのプログラマティック広告黎明期と比べ、現在の市場はより複雑で高度なものになりました。当時はテクノロジーの導入自体が差別化要因でしたが、今はそのテクノロジーを前提とした「ユーザーとの関係設計」こそが本質です。AIを活用して開発コストを抑えつつ、独自のコミュニティと収益基盤を確保することが、メディアの持続可能性を高める生存戦略になるのではないでしょうか。
まとめ:視聴者を「顧客・ファン」へと繋ぐ視点
YouTubeの規約厳格化もTikTok Shopの躍進も、その根底には「プラットフォームとしての収益効率を最大化したい」という共通の狙いが見て取れます。
これからの時代は、単にコンテンツを届けて終わりにするのではなく、その先の「購買」や「継続的な支持」を設計できるメディアが、より強い存在感を発揮していくはずです。動画の持つ魅力を大切にしながら、ビジネス的な成果もしっかりと確保していく。そんなバランスの良いDX(デジタルトランスフォーメーション)を、今こそ検討してみてはいかがでしょうか。




