はじめに:Web3 は「終わった」のか
2026 年、Web3 は投機的な熱狂から実用性へと舵を切っています。
かつてブームを巻き起こした Move-to-Earn の代表格 STEPN は、その後に何をもたらしたのでしょうか。
私は広告・メディア業界で約 10 年間、SSP(Supply-Side Platform)やアドネットワーク事業に携わってきました。2015 年から 2020 年にかけては、プログラマティック広告の台頭を目の当たりにし、多くのメディア事業者と収益モデルについて議論を重ねてきました。
その経験から感じるのは、Web3 の進化は「投機から実用へ」というプロセスを辿っているということです。
本記事では、Web3 の現在地を整理し、日本メディアが学ぶべき教訓を提案します。
STEPN の軌跡:熱狂と現実のギャップ
STEPN とは
STEPN は、NFT スニーカーを購入し、GPS 機能を活用して実際に移動することで、GST(Green Satoshi Token)という仮想通貨を獲得できる仕組みです。
基本構造:
- NFT スニーカーを購入(初期投資)
- 屋外で歩く・走る
- GST トークンを獲得
- トークンを売却して収益化
2022 年の熱狂
2022 年のピーク時、STEPN は以下の数字を記録しました。
| 指標 | 数値 | 時期 |
|---|---|---|
| 月間アクティブユーザー | 数十万人規模 | 2022 年前半 |
| GST トークンピーク価格 | $8.51 | 2022 年 4 月 |
| GMT トークンピーク価格 | $4.11 | 2022 年 4 月 |
注: ユーザー数については 70 万人との報道もありますが、正確な数値は不明です。
急落の理由
しかし、この熱狂は長くは続きませんでした。
急落の要因:
-
新規ユーザーの流入鈍化
- 初期投資(NFT スニーカー)が必要
- 参入障壁が高い
- 後発ユーザーの収益性が低下
-
トークンの供給過多
- ユーザーが増えるほどトークン発行量が増加
- 需要が供給に追いつかない
- トークン価格が下落
-
経済モデルの持続性
- 新規ユーザーの投資が既存ユーザーの収益源
- ピラミッド構造に近い
- 成長が止まると崩壊
現在の状況
2026 年現在、STEPN のトークン価格はピーク時から 90% 以上下落しています。
| トークン | ピーク価格 | 現在価格(推計) | 下落率 |
|---|---|---|---|
| GST | $8.51 | $0.10 未満 | -98% 超 |
| GMT | $4.11 | $0.20 未満 | -95% 超 |
注: 暗号資産価格は変動が激しいため、正確な数値は各サイトでご確認ください。
2026 年、Web3 の現在地
投機から実用へ
2026 年現在、Web3 は初期の熱狂と投機的な側面から一歩離れ、より実用的で持続可能な価値創造へとシフトしています。
変化の方向性:
| 分野 | 2022 年(投機) | 2026 年(実用) |
|---|---|---|
| NFT | プロフィール画像(PFP) | チケット・会員権・ゲームアイテム |
| DeFi | 高利回り運用 | 企業金融・送金・決済 |
| GameFi | Play-to-Earn | ブロックチェーンゲーム |
| DAO | 投資 DAO | プロトコル統治・コミュニティ運営 |
具体的な活用事例
1. サプライチェーン管理
事例:Walmart(米国)
- 食品のトレーサビリティにブロックチェーンを活用
- 生産者から消費者までの流通経路を追跡
- 食品偽装の防止・リコールの迅速化
出典:Walmart Blockchain Initiative
2. 金融分野(DeFi 2.0)
事例:JPMorgan(米国)
- ブロックチェーンを活用した国際送金
- 従来の SWIFT より迅速・低コスト
- 機関投資家向けに開放
3. デジタルアイデンティティ
事例:Estonia(エストニア)
- 国民のデジタル ID にブロックチェーンを活用
- 投票・医療記録・行政手続きを一元管理
- 世界で最もデジタル化された国家
出典:e-Estonia
4. コンテンツ・メディア
事例:Mirror(グローバル)
- ブロックチェーン 기반 콘텐츠 플랫폼
- 記事の NFT 化でクリエイターが直接収益化
- 読者がコンテンツを「所有」できる
出典:Mirror.xyz
市場規模の推移
世界のブロックチェーン市場規模は、以下のように成長しています。
| 年 | 市場規模 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2020 年 | 約 30 億ドル | - |
| 2022 年 | 約 85 億ドル | +180% 超 |
| 2024 年 | 約 145 億ドル | +70% 超 |
| 2026 年 | 約 200 億ドル超(予測) | +40% 超 |
出典:Grand View Research 他
特にエンタープライズ領域での活用が成長を牽引しています。
日本メディアが Web3 から学べる 3 つの教訓
教訓 1:持続可能な経済モデルの設計
STEPN の教訓:
- 新規ユーザーの投資が既存ユーザーの収益源になるモデルは持続しない
- 外部からの価値流入が必要
- 長期的な価値創造が不可欠
日本メディアへの適用:
| 避けるべきモデル | 推奨モデル |
|---|---|
| 広告のみ依存 | 広告+サブスク+EC の多角化 |
| 短期的なトラフィック追求 | 長期的なファン育成 |
| プラットフォーム依存 | ファーストパーティデータの構築 |
私がメディアリープを設立した理由もここにあります。広告に依存するほど、メディアもユーザーも疲弊していく構造に課題を感じていました。
メディアを単なる集客装置ではなく、ユーザーと継続的な関係を築く「プロダクト」へと進化させる必要があります。
教訓 2:ユーザー体験の優先
STEPN の教訓:
- 初期投資(NFT スニーカー)が参入障壁になった
- 複雑な仕組みがユーザーを遠ざけた
- 投機目的のユーザーが多く、サービス本来の価値が薄れた
日本メディアへの適用:
| 避けるべき設計 | 推奨設計 |
|---|---|
| 会員登録が複雑 | シンプルなオンボーディング |
| 機能が過多 | コア機能に集中 |
| 課金設計が複雑 | 透明な価格設定 |
Web3 時代の分散型エコシステムは、メディアが自身のアイデンティティと価値を再定義し、ユーザーとの新たな関係性を築くための強力なツールとなり得ます。
教訓 3:コミュニティの重要性
STEPN の教訓:
- 初期はコミュニティの熱狂が成長を牽引
- しかし、投機目的のコミュニティは価格下落と共に離散
- 本当のコミュニティは「価値共感」で形成される
日本メディアへの適用:
| 従来のアプローチ | Web3 時代のアプローチ |
|---|---|
| 一方向的な情報発信 | 双方向のコミュニケーション |
| 読者=消費者 | 読者=コミュニティメンバー |
| トラフィック重視 | エンゲージメント重視 |
AI を活用して開発効率を高めることで、メディアは Web3 の恩恵をより手軽に享受し、イノベーションに注力できる環境を構築できるのです。
Web3 時代におけるメディア DX の重要性
スマートフォン新法の影響
日本においては、「スマートフォン新法」(特定デジタルプラットフォーム提供者の利用者の利益の確保に関する法)の施行が予定されています。
出典:公正取引委員会
アプリストアの公正な競争が促進されることで、メディア独自のアプリ展開の重要性が一層高まります。
必要な対応
ユーザーとの直接的な接点を強化し、プラットフォームに依存しない収益モデルを確立するためには、自社アプリの最適化と多角的な機能提供が不可欠です。
具体的なアクション:
-
自社アプリの开发
- プッシュ通知による直接接点
- オフラインアクセス
- デバイス機能の活用
-
収益モデルの多角化
- 広告+サブスク+EC
- 会員制コンテンツ
- コミュニティ機能
-
データ基盤の構築
- ファーストパーティデータの収集
- 顧客セグメントの分析
- パーソナライゼーション
注意点:Web3 導入のリスク
リスク 1:技術的な複雑さ
問題:
- ブロックチェーン技術は理解が難しい
- 開発コストが高い
- セキュリティリスク
対策:
- 段階的な導入
- 専門家との連携
- 既存サービスの活用
リスク 2:規制の不確実性
問題:
- 暗号資産に関する規制が変化
- 国によって規制が異なる
- 税制上の扱いが複雑
対策:
- 法務・税務専門家との相談
- 規制動向の継続的な監視
- コンプライアンス体制の構築
リスク 3:市場のボラティリティ
問題:
- 暗号資産価格の変動が激しい
- 収益計画が立てにくい
- ユーザーの信頼獲得が難しい
対策:
- 法定通貨建ての価格設定
- 価格変動リスクのヘッジ
- 長期的な価値提供のコミットメント
まとめ:持続可能な価値創造へ
かつて Web3 の象徴とも言えた「〇〇 to Earn」モデルは、その投機的な側面が先行した結果、多くのプロジェクトが困難に直面しました。
しかし、その経験は Web3 エコシステム全体に多くの教訓を与え、より堅実で実用的なアプリケーションへの進化を促しました。
2026 年現在の Web3:
- 金融、エンタープライズ、デジタルメディアで実用化が進展
- 投機から価値創造へ
- 短期利益から長期持続へ
デジタルメディア事業者にとって、これは単なる流行りの技術に飛びつくのではなく、自社のコアバリューと長期的な戦略に基づいて、Web3 技術をどのように取り込み、ユーザーと新たな関係を築くかを真剣に考える機会です。
重要なポイント:
- 持続可能な経済モデルの設計
- ユーザー体験の優先
- コミュニティの重要性
プラットフォーム依存からの脱却、収益モデルの多角化、そしてユーザーエンゲージメントの深化は、これからもメディア DX の重要なテーマであり続けるでしょう。
参考ソース
- CoinMarketCap - STEPN
- CoinGecko - STEPN
- Grand View Research - Blockchain Technology Market
- 公正取引委員会 - スマートフォン新法
- e-Estonia - Digital Identity
- Mirror.xyz - Web3 Content Platform




