広告枠を増やさずに、広告の価値を上げる方法を考えている

音声化SaaSを作る人間が、なぜ広告モデルを選ばなかったのか。そして、いま考えているのは「枠を増やす」のではなく「いまある枠の価値を上げる」ことだ。滞在時間と広告単価の間にある距離、ビューアビリティという閾値、画面を見ていない時間をどう扱うか。広告で食ってきた人間だからこそ、誠実に書きたい。

広告枠を増やさずに、広告の価値を上げる方法を考えている

正直に書くと、私がいちばん書きたかったのはこの記事かもしれません。

音声で記事を聴けるようにするSaaS、PUBVOICEを作っています。広告で10年食ってきた人間が、広告を増やすのではなく「聴く導線」を足すプロダクトを作った。でも、それだけだと、まだ半分しか言っていません。もう半分は「なぜ広告モデルにしなかったのか」と、その先に「何を考えているのか」です。

この2つは、切り離せません。

私は2015年から2020年にかけて、SSPとアドネットワークの事業にいて、メディアの広告収益化を支援する仕事をしていました。Google Ad Managerの画面を朝から晩まで見ていた時期があります。「ここに広告枠を一個足せば、月間でこれくらい収益が伸びます」という提案を、メディアの担当者に対して自分の口で何度もしてきました。Header Biddingの導入で収益がどう動くか、自分の手で検証してきた側です。

その人間が、広告を増やす側にはもう回らないと決めた。その理由と、いま考えていることを、業界の構造に沿って書きます。

なぜ広告モデルにしなかったのか

事実だけを先に書きます。

PUBVOICEは、広告モデルにもできました。音声ストリームの中に広告を挿入すれば、メディアは無料で使える。プレロールを一本入れるだけでも、配信量が乗れば売上になる。技術的には、いくらでも作れた。

それをしませんでした。

理由は単純で、広告を増やす側にもう一度回るなら、このプロダクトを作る意味がないからです。私は10年間、広告枠を増やして収益を伸ばす仕事をしてきました。その結果、広告で埋まったページを何枚も見てきました。「広告を増やせば収益は伸びるが、ユーザーは離れる」というジレンマを、現場で何度も抱えてきました。もうその側に立ちたくない、というのが正直な気持ちです。

だから、メディアに費用を負担してもらう構造にしました。Freeプランで小さく始められて、個人ブログの書き手ならLiteプラン(月額1,480円)で済む。ただし、事業を回す以上、有料でいただく。これは、楽な選択ではありません。

ここに自覚が要ります。「広告を増やしたくない」と言いながら、メディアからお金をいただく以上、それに見合う効果を出す責任がある。広告モデルにしなかったことは、私の誠実さの根拠にはなりません。効果を出すことだけが、根拠になります。

枠を増やすのと、枠の価値を上げるのは違う行為だ

ここで、すぐに矛盾が飛んできます。

「広告を増やしたくない」と言った直後に、「でも音声の中に広告を入れることは考えている」と書くと、読者は必ず矛盾を感じます。だから、先に一言だけ挟んでおきます。

枠を増やすのと、いまある枠の価値を上げるのは、まったく違う行為です。

前者は読者から奪う。画面の端に広告をもう一つ足せば、読者の視線をもうひとつ奪うことになる。後者は読者に何も足さない。いまある広告枠が、より長く、より深く見られるようになるだけだ。

私がやりたいのは、後者だけです。

滞在時間と広告単価の間には、距離がある

では、「枠の価値を上げる」とは具体的に何か。

PUBVOICEを導入したメディアでは、記事の音声再生セッションの滞在時間が平均で1.5〜2.5倍に延びました。ここまでは、他の記事でも書いてきた事実です。ただ、「滞在時間が延びた」と「広告の価値が上がった」の間には、正直、距離があります。ここを甘く書くと、業界の人間に崩されます。

崩されるとわかっているポイントを、自分から3つ挙げます。

1. ビューアビリティは閾値であって、連続量ではない

まず、ビューアビリティ(Viewability)について。

MRC(Media Rating Council)の基準では、ディスプレイ広告のビューアビリティは「ピクセルの50%以上が1秒以上表示されること」で定義されます。つまりviewableかnot-viewableかの閾値判定であって、「滞在時間が長いほどビューアビリティが上がる」という連続量ではありません。

滞在時間が10倍になっても、viewable判定はviewableのままです。だから、「滞在が延びればビューアビリティが上がる」と短絡的に言うのは、正確じゃありません。

ただし、滞在が延びることで正しく主張できるのは、次の3つです。

  • ファーストビューの外にある枠(記事下部、サイドバーの下のほう)が、視認される確率が上がる。つまり、viewable impressionとして計上されるインプレッション数そのものが増える
  • 1インプレッションあたりの視認継続時間(time-in-view)が伸びる。Google Active Viewの平均表示時間のような指標が改善する
  • リフレッシュ型の枠であれば、有効インプレッションが増える

ここから先の「単価が上がる」を繋ぐのは、近年のアテンション指標の文脈です。AdelaideのAU(Attention Units)や、かつてPlayground xyzが計測していたようなアテンションベースの指標を採用する買い手は、time-in-viewが長い在庫を評価する傾向にあります。「視認継続時間が長い在庫は、アテンションを買う広告主から選ばれうる」、これが、滞在時間から単価への橋渡しになります。

ここまでは、論として立ちます。

2. CTRは、主張から外す

次に、クリック率(CTR)について。

ここは、正直に書きます。音声を聴いている読者は、コンテンツに没入しています。没入している読者ほど、広告をクリックしません。「音声化でCTRが上がる」と主張すると、業界の人間に指摘された瞬間に、全体が崩れます。

だから、CTRは主張に入れない。主張を減らすほうが、全体が強くなる、ということがあります。ここはその典型です。

3. 「画面を見ていないなら、水増しでは」

最後が、いちばん鋭い反論です。これも、必ず来ます。

音声を聴いている読者は、スマホをポケットに入れたまま、画面を見ていないかもしれない。画面が放置されたまま音声だけが再生されていれば、ビューアビリティの数字は伸びる。でもそれは、広告が見られたことにはならない。かつて自分が加担してきた「数字は増えたが実態は伴わない」の、別バージョンでしかない。

ここには、私自身も引っかかっています。

だから、この問いに自分から触れて、誠実に答えたい。PUBVOICEでは、設計の段階から、以下のような扱いを検討しています。まだ構想の段階で、すべて実装できているわけではありませんが、方向性として書きます。

  • 画面がバックグラウンド、あるいは非アクティブな間の再生を、滞在時間の指標から除外する
  • 音声内に挿入した広告と、画面の広告枠のインプレッションを、二重にカウントしない
  • 「読みながら聴く」セッションと「ながら聴き」セッションを分けて計測し、レポートでも分ける
  • 音声広告は、聴取が確認できたときのみインプレッションとして計上する

「数字を増やして売る」のではなく、「実態に合った数字だけを売る」設計にする。広告で食ってきた人間だからこそ、ここは譲れない線だと思っています。

いま考えていること、でしかない

ここまで書いてきたことは、実装済みの事実ではありません。「いま考えていること」「次にやろうとしていること」です。

音声コンテンツの中に広告を挿入すること、音声プレイヤーの近くにあるいまの広告枠の価値を、滞在時間と視認継続時間の伸びで押し上げること。これらは構想であり、検証の段階です。すでに全部できていると書くのは、正直じゃない。比較記事では「音声広告はまだ内蔵していない」と正直に書いており、その姿勢は変えません。

ただ、構想を開示することには、意味があると思っています。広告を増やす側に回らない、という意思を、構想の形で示しておく。それが、メディア収益の構造を本当に考えている人たちとの対話を生むなら、構想の段階でも書く価値がある。

広告で食ってきたからこそ

最後に、個人的なことをひとつだけ。

広告を増やす仕事を10年続けてきて、いちばん残った感覚は、「広告は悪くないけれど、広告だけに乗る構造は、コントロールできない変数に収益の大半を預けている状態だ」ということです。アルゴリズムが変われば、ポリシーが変われば、景気が動けば、メディアの収益はそのまま連動して揺れる。これは、媒体社の努力不足ではなく、収益構造の設計の問題です。

私がPUBVOICEを作っているのは、広告を敵にするためではありません。広告で食ってきた人間が、広告の価値を底支えするもう一本の導線を、足したかっただけです。

枠を増やすことと、枠の価値を上げることは違う。後者だけを、誠実にやりたい。その先の答えは、まだ持っていません。でも、問いの形だけは、ここに置いておきます。

自社開発サービス

記事を「音」で届けるサービス、PUBVOICE

私たちが開発したPUBVOICEは、メディア運営者の作業負担を増やさずに音声体験を追加できるサービスです。 RSSを登録するだけで、新しい記事が公開されるたびに自動で音声が生成されます。

RSS連携で記事公開と同時に音声生成
30種類以上の音声パターン
滞在時間が平均11倍に

「読者が記事を最後まで読んでくれない」——その悩みを聞くたびに、音声なら解決できると感じていました。 通勤中、家事の合間、運動中。テキストが届かない時間に、音声は届きます。 PUBVOICEは、その想いから生まれたサービスです。

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笹尾 祐太朗

笹尾 祐太朗

代表取締役 / MediaLeap Inc.

デジタル技術の力を借りて、一人ひとりの「やりたい」「できるようになりたい」に真摯に向き合い、技術の力で実現していく。それが私たちの使命です。

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