デジタルメディアを取り巻く環境は、かつてないほど激変しています。私が広告業界に関わり始めた2010年代半ばから、メディアの収益モデルは主に広告単価とページビュー(PV)に依存してきました。しかし、サードパーティCookieの廃止やプライバシー規制の強化、そしてユーザーの注意力が分散されるSNSの台頭により、「広告だけで運営していく」ことの難易度は年々高まっています。
そうした中、多くのメディア事業者が模索しているのが「動画化」です。しかし、良質な動画コンテンツを毎日制作し続けるには、撮影、編集、出演者の手配など、莫大なコストと労力がかかります。特にテキストメディアにとって、これは簡単な道ではありません。
では、コストを抑えつつ、ユーザーとのエンゲージメントを深める道はどこにあるのでしょうか。私はその答えの一つが、「音声コンテンツ」にあると考えています。今回は、動画化とは異なるアプローチとして注目される音声コンテンツの可能性と、私たちが現在開発を進めている新サービス「PUBVOICE(パブボイス)」についてお話しします。
動画化の壁と音声コンテンツの台頭
「テキストを動画にする」ことがトレンドですが、現実にはハードルが高すぎます。私がSSP(サプライサイドプラットフォーム)やアドネットワーク事業に関わっていた頃、メディア側は「広告収益を最大化するための枠」を確保することに必死でした。今も状況は変わらず、多くのメディア運営者が「コンテンツを作ること」以上に「集客」に追われています。
そこで再注目されているのが、「聴く」という行為です。移動中、家事の合間、運動中など、画面を見られない「ながら聴き」の時間は膨大に存在します。海外ではすでにこのニーズに対応したサービスが急成長しており、その一つが「BeyondWords」です。
BeyondWordsは、テキスト記事をAI音声で読み上げるプラットフォームですが、彼らが公表したデータには驚くべき数字が現れています。音声コンテンツを導入したメディアでは、リスナーの平均滞在時間が非リスナーの約11倍(322秒 vs 30秒)に達したという報告があります。また、ページ閲覧数が19%増加し、リピーター率も32%向上しています。これは、「聴く」体験が、ユーザーを単なる読者から「ファン」へと変えている証左と言えるでしょう。

日本市場における音声コンテンツの現状と可能性
日本におけるポッドキャスト市場や音声記事の需要は、海外に比べるとまだ発展途上と言えます。文化的な背景や、文章を目で追うことへの慣れがあるため、「テキストを読む」習慣が根強いのです。また、日本語のAI音声に対しては「不自然さ」「機械的な冷たさ」を感じるユーザーも多く、受け入れられづらい要因となっていました。
しかし、この状況は変わりつつあります。グローバルなポッドキャスト市場は2024年に3,072億円規模に達し、2030年には1兆3,113億円まで成長すると予測されています。この流れは日本にも無縁ではありません。特に、通勤時間が長い都市部や、高齢化社会において「視力の負担を減らしたい」というニーズは、音声コンテンツが開拓できる大きな未開拓市場です。
私がメディアを「続くプロダクト」にするためには、単に情報を発信するだけでなく、ユーザーのライフスタイルに溶け込む必要があると考えています。音声は、画面に縛られない唯一のコンテンツ体験として、メディアとユーザーの接点を圧倒的に広げるポテンシャルを秘めています。
RSSとタグだけで実現、AI音声配信「PUBVOICE」
こうした背景から、私たち株式会社メディアリープは、Webメディア向けのAI音声配信サービス「PUBVOICE」の開発を進めてきました。このサービスのコンセプトは、シンプルに「記事がもっと、日常に溶け込む」ことです。
従来、音声配信システムを導入するには、サーバーの構築や音声データの管理、再生プレイヤーの開発など、技術的なハードルが高く、初期費用もかさみがちでした。しかし、PUBVOICEは異なります。メディア運営者が行うのは、RSSフィードを設定し、サイトにJavaScriptタグを貼り付けるだけ。これだけで、AIが自動的に記事を取得し、自然な音声で読み上げる環境を整備できます。
PUBVOICEの主な特徴は以下の通りです。
- AI台本自動生成と高品質音声: 記事のテキストをそのまま読み上げるのではなく、AIが音声用に最適化された台本を自動生成し、より自然な聞き心地を実現します。30種類以上の音声パターンに対応しており、メディアの特性に合わせてトーンを選択可能です。
- 高いセキュリティと手軽さ: 記事の内容がAIの学習に利用されない設計になっており、独自のコンテンツを安全に配信できます。導入は数分で完了し、複雑な設定は不要です。
- エンゲージメントの可視化: 誰が、どれくらいの時間、聴いているのかという詳細な分析機能を搭載しています。これにより、編集部はどの記事が音声で好まれているかを把握し、コンテンツ戦略に反映させることができます。
私が技術者としてアプリ開発に携わってきた経験上、「導入のしやすさ」と「運用の持続可能性」はセットであるべきです。どんなに良い機能でも、運用負荷が高くては続きません。PUBVOICEは、まさに「現場で回し続ける」ことを最優先に設計されています。
「滞在時間」から「関係性」へ
広告モデルの限界を痛感してきた私にとって、PUBVOICEが提供する価値は単に「滞在時間が伸びる」ことだけではありません。重要なのは、ユーザーがメディアに対して抱く感情の変化です。
目を疲れさせずに、耳だけで情報を得る時間。それはユーザーにとって、非常にリラックスした、没入感の高い時間です。そこで届くのは情報だけでなく、メディアの「声」や「個性」です。これは、バナー広告やテキストだけでは到達できない、ユーザーの深層心理にあるファン心理を刺激するアプローチだと信じています。
現在、PUBVOICEはアルファテストおよび先行体験会の参加者を募集中です。正式リリース後は月額9,800円〜の利用を想定していますが、この期間中は無料で機能をご試感いただけます。もし、「動画化は難しいけど、もっと読者と深く関わりたい」「新しい収益源やエンゲージメントの改善策を探している」というメディア運営者がいれば、ぜひ一度、その「音声」を聞いてみてください。
メディアの未来は、PV数やCTRだけで評価される時代から、いかにユーザーの生活に役立ち、愛されるかという時代へとシフトしています。「読む」を「聴く」へ。その小さな変化が、メディアを「続くプロダクト」に変える第一歩になるかもしれません。
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